レポート:小池良次
ビジネスモデルという言葉は、本来の「事業目論見書」という意味から離れインターネットの仕組みを利用した起業アイデアを説明するために多用されてきた。そうした意味からビジネスモデルを見直す動きが米国では広がっている。しかしネットに限定してもビジネスモデルは意味も広く、業界それぞれに特徴的な構造を持っている。ここでは代表的な例としてB2C系と通信系ベンチャーを取り上げて最近の状況を押さえながら考えて行こう。
米国はパソコン業界とネット業界が同時に不振に陥り、10年来の厳しい環境にある。この逆風に、これまで成功例として紹介されてきた多くのネットビジネスが凋落している。オンライン・スーパーのウェブバンは破産し、オンライン旅行代理店のエクスペディアは業績を落としている。また電子小売店の老舗、ワインドットコム(旧バーチャル・ヴァインヤード)は身売りし、最大手のアマゾンコムでさえ株価を落としている。
ウェブ・マージャーズ(webmergers)社の発表によれば2000年1月から2001年7月までの間に約592件のネットビジネスが営業を停止する一方、窮地に陥ったネットビジネスを狙い撃ちにして大手が買収・合併(M&A)を展開している。その数は2001年1月から7月までで825件、総額319億ドル(3兆5000億円)にも達している。まさに不況期M&Aがブーム真っ盛りという状況だ。
ちなみに不況期M&Aの第1期は1999年から2000年初めで、AOLによるタイムワーナー買収などに代表される大型M&Aが多かった。現在の第2期では中堅中小による水平統合や垂直統合を目指したM&Aが多数進んでいる。
こうした凋落組の多くは起業アイデア(ネットビジネスモデル)の欠陥というより未熟な運営能力や放漫な資金計画などにより窮地に陥っている点に注意したい。買収されたネットビジネスの3分の1は、買収後業績を回復している(ウェブ・マージャーズ社調べ)ことが、こうした点を裏付けている。
一方、低迷期にひとり気を吐いているのがイーベイだ。ネットオークション業界で一人勝ちしている同社だが、その内容を見ると更に驚愕する。たとえば自動車の販売サイトが軒並み苦境にあるなか、イーベイの自動車カテゴリーでは数時間に1台の割合で高級スポーツカーが売れている。今年の自動車部品の取引高は1000億円を超える勢いだ。IBMを筆頭に多くのコンピュータ・メーカーがイーベイで商品を販売しているほかJCペニーなども顔をそろえている。個別電子小売店が厳しいなか、イーベイは最大の電子小売店街と化している。
一方、中抜きモデル最大の成功例といえるデル・コンピュータも厳しいパソコン不況のなかでよく健闘している。2桁の販売不振が多い競合他社に比べ、売上げをほぼ横這いに納めているデル社は「堅実な経営をしている」と証券筋の好感度も高く、同社中抜きモデルが健在であることを証明している。
ネットビジネスには様々なタイプがあるが、大きくトラディショナルモデル(伝統的事業形態)とノン・トラディショナルモデル(非伝統的事業形態)に大別される。そして不況下でも生き残っている「ネットオークション」も「中抜きモデル」も、興味深いことにノン・トラディショナルモデルに属している。
新聞情報の代替にあたるニュースの「ウェブ配信」や店舗・通販の代替にあたる「電子小売店」など、多くのネットビジネスは既存ビジネスをインターネットに乗せ直す物が多かった。これがトラディショナルモデルといわれる分野でオンライン書店、オンライン旅行代理店、オンライン衣料雑貨など枚挙にいとまがない。これらが、今回のネットビジネス瓦解の主役で、いまや店舗や通販など既存の販売方法を補完する形で大手に吸収されている。これが先に述べた不況期M&Aブームを巻き起こしている。
一方、ネットオークションは規模の大きさ、迅速性、在庫や決済、物流を含まないサービス形態など従来に例を見ないビジネススタイルだ。また、デル社の例では、卸問屋や小売を排除した点は従来のカタログ通販と同じだが、顧客が自分でメモリーやモニターサイズなどを細かく指定できる多品種対応でありながら、注文を受けてから生産に取りかかる受注生産体制を確立したことは従来に例を見ない。このようにどちらもインターネットなしでは成立しないビジネスモデルであることに注意したい。
大雑把に言えば、今回のネット不振でトラディショナルモデルは既存ビジネスに補完される形で吸収され、ノン・トラディショナルモデルは新しいビジネスとして根付いていると見ることができる。
では通信業界に眼を転じてみよう。インターネットで最大の恩恵を受けたのは通信業界に違いない。ここでもトラディショナルモデルとノン・トラディショナルモデルのルールは成立するが、もう一つの要因を考慮に入れなければならない。長距離通信サービスと地域通信サービスでは成功するビジネスモデルが違うということだ。
これは電話の歴史が証明してきた。1980年代に光ファイバーが出現し長距離電話の幹線網コストは数千分の1に低下した。と同時に1本の光ファイバーで数万回線を補うことができるようになり、利用者一人あたりの設備負担は数万分の1に下がった。これが長距離電話料金を極端に下げ、ベンチャー企業でも市場参入ができる環境になった。こうして80年代後半からMCIやスプリントといった長距離電話ベンチャーがAT&Tと戦いながら成長してきた。このように長距離通信分野では比較的小さな設備投資で参入でき、投資回収も短いためベンチャー向きの市場といえる。
この歴史はインターネットでも繰り返され、クエスト・コミュニケーションズやグローバル・クロッシング、UUNet(現ワールドコムの子会社)など幹線網事業は大成功して、AT&Tなどと激しい戦いを余儀なくされている。
一方、地域通信は逆に巨大な投資が必要で、しかも投資回収に長い年月を要する。そもそも各家庭や事務所に一つ一つ電話線を敷設し、電話局を建設する市内電話は莫大な投資が必要となる。それにも関わらず回線あたりのユーザー数はたった一人に過ぎない。長距離幹線網が1本の光ファイバーを数万人で共有するのに比較すると、回線あたりの負担率は高い。当然、市内電話料金は高く、投資を回収するためには何年もの歳月を要する。
米国政府は過去10年にわたって地域電話市場に競争を導入し、市内電話料金の低下とサービス向上を狙ってCLECsと呼ばれる地域通信ベンチャーの育成を進めてきたが、いっこうにベル系と競争できる大手は育たない。ベル系地域電話会社の独占は改善されず、サービス向上や技術革新も進んでいない。この経済構造を打ち破る革新的な技術はまだ現れておらず、地域通信は現在もベンチャーには不向きな市場といえる。
この歴史的困難に、いまインターネットは直面している。たとえばxDSLサービスを提供しているノースポイント、コバード、リズムスのDSP(xDSLサービスプロバイダー)卸売りトップ3は相次いで破産あるいは会社更正処理に入っている。その一方で既に電話線を持っているベル系地域電話会社はADSLビジネスを伸ばしている。
別の見方をすればダイヤルアップの時代、ISPはサービス料だけを得る代わりに、電話線の負担は利用者に任せていた。一方、xDSLは回線を含めてサービス料を徴収する代わりに、電話局に置く新しいxDSLの設備や回線の負担金を支払うわけだ。こうした高コスト、長期回収型のモデルは独占的な保証がなければ、そもそも成立しない。xDSL市場でのベル系一人勝ちは当然といえる。つまりxDSLビジネスは典型的なトラディショナルモデルで成立しているといえよう。IP電話が長距離市場でのみ成功しているのも同様の理由といえる。
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このようにインターネットは美味しい長距離市場での成功から、忍耐と制度的制約に溢れた地域通信市場のデジタル化に直面している。その意味ではインターネットはもはや昔のインターネットではなく、地域市場を狙うネットビジネスは、ポスト・インターネットぐらいの意識変革がなければ足を救われるといえるだろう。また、それにともないビジネスモデルの考え方も大きな変化を余儀なくされていると言えるだろう。