レポート:小池良次
1995年、たった10課目から始めたイーベイ(www.ebay.com)は、いまやコンピュータ、ヨット、記念コイン、切手など1000科目を超えるまでに成長した。ヤフーにせよ、ネットスケープにせよインターネットのベンチャーは初期投資がかさみなかなか黒字にはならなかった。この常識をやぶってイーベイは当初から高い収益力を誇っている。今回はオンライン蚤の市といわれるイーベイを追ってみた。オークションというと年代物のワインや骨董品、絵画などの競売を頭に浮かべる方もあるかもしれない。しかしイーベイが運営しているオンライン・オークションは、そうした高級なイメージとはほど遠い。どちらかといえば広場などで開催される「蚤の市」といった感覚だ。
同社のサイトに行くとスポーツ選手の記念カードやブリキのオモチャ、使い古しのスキャナやプリンターなど雑多な品に数ドルから数十ドルの値段がついている。実際、イーベイの平均落札価格は40ドル以下と言われる。
こうした単価の安い商品を取り扱う場合、ある程度の取引量が確保する「薄利多売」が一般的だが、イーベイの場合は規模が小さい時期から確実に利益を生み出してきた。それは同社のオークション事業が一般常識を覆す荒利率85%という驚異的な利益率を誇っているからだ。
イーベイのビジネスを見ると一般的な商売のルールにまったく当てはまらないことがわかる。その最大の特徴は「無在庫、無物流、無決済」という三無経営だ。
イーベイは一般消費者が商品を販売できる広場を提供することに徹している。ユーザーはオンラインで簡単な登録作業をするだけで、イーベイの競売に品物を出せる。競売に掛けるといっても、別に商品をイーベイに送る必要はなく、商品の説明や写真、最低希望価格などを登録するだけでよい。
つまりイーベイは小さなコインであろうと、大型ヨットであろうと一切商品の在庫を置く必要がないわけだ。この無在庫システムでイーベイは倉庫設備や在庫チェック、仕入れ管理などの経費を一切省くことができるわけだ。
しかも競売が成立して最高価格を付けたユーザーには電子メールで、その結果を知らせるだけ。あとは売り手と買い手が直接連絡し合って、売り手が直接商品を買い手に送る。おかげでイーベイは商品発送に伴う物流管理も物流コストも考える必要はない。
そして最後は無決済システムだ。イーベイは競売が成立すると、売り手に最終落札者の電子メール先を教えるだけ。後はコミッションを計算し売り手に請求書を発行するだけだ。たとえ1ドルであろうと、あるいは1億円であろうとイーベイは売り手と相手のお金のやり取りには一切関与しない。おかげで決済関連費用や運転資金の管理なども最小限にすることができる。
この三無経営が荒利率85%という驚異的な利益率をもたらし、始めから儲かるインターネット・ビジネスのイメージを作り上げた。
一方、イーベイが始めたオンライン・オークションは消費者が手軽にお小遣い稼ぎができる手段として大きな人気を集めるようになった。どこの家庭でも十分使える「ガラクタ」の一つや二つはあるものだ。従来、米国では近所どうしが集まってガレージ・セールと称して、こうしたガラクタを売っていた。また記念コインや大学時代の優勝トロフィーなどは、特定の競売業者や骨董品業者を知らない限り販売することはできなかった。ところがイーベイはこうしたガラクタや記念品を格安の手数料で販売する方法を提供したわけだ。
同社の手数料は一般消費者が手の届くレベルに設定している。1品目を競売に掛ける基本料は希望する最低価格が10ドル以下であれば25セント(約30円)、24ドル99セントまでなら50セント(約60円)と順番にあがってゆき、最高が50ドル以上の場合で2ドル(約240円)となる。つまり3000万円のヨットを競売に掛けても240円というわけだ。この基本料に文字を大きくしたり、ちょっとした柄を加えたりしても数ドルという安さだ。
もちろんもう少し高い競売条件もある。たとえば特定のカテゴリーに入れる「Category Featured Auction」は14ドル95セント。イーベイないの様々なページをローテーションさせながら表示させる「Featured Auction」は99ドル95セントとなっている。こうした効果的な競売方法は値の張る商品には効果的だろう。とはいえいずれの価格も一般消費者の値頃感覚からかけ離れたものでないところがイーベイ成功の秘密だろう。
イーベイでは競売が成立すると一定の成功報酬を掛けてくる。成功報酬は最初の25ドルまでが5%(1ドル25セント)、25ドルから1000ドルまでは2.5%、そして1000ドル以上は1.25%となる。つまり1000ドルで落札すると売り手は数ドルの基本料金と12ドル50セントの成功報酬をはらう。ざっと見積もって1000ドルの商品を競売に掛けた場合の総費用は約20ドルという感じだ。
イーベイの特徴はシステムが簡単なところにもある。ほかのオークション・サイトでは専用のソフトウエアをダウンロードして自動的に商品を探したり、ビットを掛けたりすることができるものもある。
一方、イーベイはそうした専用ソフトを使うことなく、システムは普通のブラウザーで利用できるものだけで構成されている。競売商品は単純なブラウザー画面に表示され、売り手や買い手の情報も単純なリンクで閲覧できる。
これを支えるサーバー側のシステムも意外とシンプルだ。全ての情報はサンマイクロのStarfire E1000、2台に搭載したオラクルのデータベースに蓄積される。また7台のサンES450がデータベースの検索処理をおこない、ウェブサーバーは60台のコンパックPCサーバーにウインドウズNTとMSのIISを載せている。これらの機器は有名なインターネット・データセンター、エキソダスにホスティングされている。
これだけのシステムで約170万点の競売商品を取り扱っており、毎分当たりの競売処理数は600件に達している。また競売品目の追加は1日あたり25万件に達しており、システムの拡張が続けられている。
負荷の増加は大きく、これまで数回に渡ってサーバーダウンによる機能停止に陥った経験がある。こうした場合、停止期間に応じて競売期間を延長することで対応しているのが現実だ。
こうした手頃な料金で広く取引ができるためイーベイの利用者数は急速に増加してきた。イーベイの基本は誰でもどんな商品でも手頃な値段で取引ができる点だ。しかしオンライン・オークションが有効な販売方法だと分かってくるにしたがい、好ましくない売り手や商品が現れてきた。
イーベイは当初、競売商品に制限をつけなかった。そのため銃や盗品、ワイセツビデオなどが競売に掛けられた。イーベイが急速に事業規模を拡大するにつれ、こうした違法商品やモラルに反する商品の販売に大きな批判が寄せられるようになってきた。特に銃器は州の銃等法規制などに違反する場合が続出し、市民団体、関係機関の厳しい圧力を受けるようになって行く。
イーベイではこうした批判に対応して、銃器の販売を最初に禁止したほか、現在では盗品やワイセツ物など違法と思われる競売品は抹消する手続きを取るようになった。また司法当局の情報収集、捜査には協力的で、情報の開示を積極的に行う姿勢を取っている。
もうひとつの問題は競売を利用した売買詐欺だ。イーベイでは簡単な登録だけで直ぐに売り手になれる。しかもウェブで観れるのは写真と本人の説明だけの限られた情報だ。そのためお金だけを取って商品を送らない例や商品だけを受け取り支払いをしない買い手、表示とは著しく違う商品が送られてくるといった問題が発生した。
イーベイでは競売品にたいする保証や決済に関する仲裁などの責任は一切負っていない。できることは問題のある買い手や売り手を登録抹消し、イーベイで競売ができなくするだけだ。一方、苦情を寄せられた消費者保護団体や州の司法当局はこうした態度に不満を持ち、適切な防止方法をイーベイに要求するようになっている。
イーベイでは売り手や買い手の信用度を測るためフィードバックによる評価を採用している。各競売では、売り手の覧に星印がついており過去の買い手からどのくらいのフィードバックがあったかが一目で分かる。またリンクをたどると買い手のコメントが好意的、中立、否定的の3分類で読めるようになっている。
一方、売り手も応札している買い手の履歴を同じように見ることができる。このように相互に過去の履歴を頼りに相手の信用度を判断することになる。しかしこれは両者の善意を基本にした方法で、悪意のある売り手や買い手を排除する有効な手段とは言いがたい。
そこでイーベイではセーフハーバー・プログラムと損害保険の二つを取り入れている。セーフハーバーは28人からなる監視グループで、ユーザーから寄せられた質問や苦情を処理し、必要に応じて捜査なども行う。これはフードバックシステムを不正に操作したり、名誉毀損や知的財産権の侵害などを摘発する目的を持っている。
また保険は詐欺などによる被害に対して最高250ドルまで保証するというものだ。
イーベイの高い収益力を目の当たりにして、多くのインターネット企業がオークション・ビジネスに参入を開始しており、今後は競争が激げしくなる傾向を見せている。
まず有名なサイトとしてはヤフー(オンセールと提携)とエキサイトがある。両者は会員の固定化を狙って無料でオークション・サービスを提供している。一方、地域を限定したシティーオークションや一度商品を買い取って競売に掛けるいわゆるB2C型のオンセール、ファースト・オークション、サープラス・オークション、uBidなども実力をつけてきた。また伝統的な競売会社も続々とウェブ分野に参入しようとしている。
こうした新規参入組の中でもいき盛んなのがコマース系サイトだ。特にアマゾンコムはオークション・ソフトのライブビット(LiveBid)を買収して同分野に力を入れている。従業員20名ほどのライブビッドは専用ソフトを使って全米40地域で地域限定の競売サービスを実施、人気を集めている。現在のところ競売科目は数百という状態で、1000科目以上、百万品目を超えるイーベイとは比較にならない。しかし抜群の知名度を持つアマゾンはコレクション専門店11社、電気カメラ製品9社、衣料宝石専門店24社などからなるアマゾン・オークション・アライアンスを編成し、徐々に品目を増やす戦術にでている。こしたところから今後は強力な競争相手になる可能性がある。
こうした競合相手の動きに対応してイーベイも様々な戦略を展開している。まず、アメリカ・オンラインとの提携強化だ。イーベイは最近AOLとの契約を改訂し、AOLの独占オークション・サービス提供者になっている。
一方、最近流行っている地域限定のオークション・サービスについては、既にロサンゼルス地区で実験を開始しており、できる限り早く全米各地で展開を測りたいとしている。また1日15万から20万個という巨大なイーベイ利用者の宅配需要を狙ってメールボックス・エトセトラ(Mail Box Etc.)およびアイシップ(iShip)がイーベイと提携をしたほか、伝統的なオークション業者のバターフィールド(Butterfield&Butterfield Auctioneers Corp.)を2億6000万ドルで買収した。
1986年設立という古い歴史をもつバターフィールドは骨董品、絵画、稀少本、ワインなどを競売する伝統的な競売会社だ。売上げは約2000万ドルで荒利150万ドルと中堅だが、各種骨董品の鑑定ができる50名ほどのエキスパートを抱えている。イーベイでは、これまで競売品目の鑑定を一切おこなってこなかった。平均価格が40ドルを切る現状では鑑定の必要性がなかったのも事実といえる。
しかしバターフィールド買収により、高価格分野にも手を広げる一方、写真や持ち込まれた商品に対しては専門家による鑑定サービスを導入する予定となっている。
また、広報活動にも力をいれ始めている。たとえば1998年初めてテレビやラジオ、有名雑誌などにも広告を拡大した大型キャンペーンを展開して知名度の強化に務めている。これは従来、AOLなど大手サイトとの提携やバナー広告に頼っていた同社にとって大きな戦略転換といえるだろう。
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1999年春段階で登録者数380万人に達しているイーベイは高株価に支えられその市場評価額は250億ドルに達している。1998年の売上げは4700億ドル、純利益は240万ドルに成長している。1999年に入っても、その成長速度は衰えておらず、オークション・トップとして、また儲かるインターネット・ビジネスとしてますます注目を集めることだろう。
(インターネットマガジン 1999/7)All Copyright reserved by Ryoji Koike 1999