【モーバイルの覇者は誰か】

AOLがドコモと提携

次世代携帯ビジネスはどうなる

レポート:小池良次


有線系ISPで世界最大のAOLと無線系で同じく最大のドコモが大幅な提携契約が進んでいる。携帯データで先手を取ろうと動くAOL。米国進出を狙うNTTドコモ。その背景には、日米欧の大手電話会社が展開する携帯電話とインターネットの覇権争いがある。

■米主要メディアを騒がせるドコモとAOL提携のニュース

 7月中旬、ファイナンシャル・タイムスやウォールストリート・ジャーナルなどが消息筋伝としてドコモとAOLの提携交渉の記事を相次いで掲載した。これを追うように、日本経済新聞は7月26日朝刊の一面で「ドコモ、AOL提携へ」と題する記事を掲載、大きな話題となった。

 このニュースに先立って、NTTドコモは7月上旬に香港のハッチンソン(Hutchison Whampoa)社、オランダのKPN(Royal KPN)社と合同で、ドイツ次世代携帯電話市場への参入を狙うという話題も米主要メディアを賑わせている。このように米国のメディアがNTTドコモに対して敏感に反応するのは、欧日の携帯電話企業が虎視眈々と米国の携帯電話市場への参入を狙っているからだ。

■サービス開発、規格統一で先行競争力を持つ欧州携帯電話事業者

 普及総台数では世界一を誇る米国は、サービス開発で欧州や日本の携帯ビジネスに大きく遅れている。特に90年代、デジタル化への移行に失敗し、しかもTDMA、DCMA、GSMなどの規格が乱立するため永らく全米をカバーする大手が生まれなかった。このためフォーン・コム独自規格やWAP規格など携帯向けデータ通信技術で先行していたにも関わらず、米国では具体的なビジネスとして携帯データは花開いていない。

 一方、欧州勢の国際化は着々と進んでいる。GSM規格で欧州市場が統一されていることもあり、フランス・テレコム(France Telecom SA)は英国の大手オレンジ(Orange PLC)を買収するなど、英独仏を軸とした激しい競争が欧州内で展開されている。そうした競争に勝ち抜いた最大手、英国のボーダフォン(Vodafone AirTouch PLC)はすでに米国を含め13ヶ国で電話サービスを展開している。また、人口比普及率で世界トップにある北欧諸国では、携帯によるショッピング決済などが普及しており、サービス面でも充実している。

■全米サービスが引き金となり買収・再編が進む米携帯ビジネス

 国際競争力を持つ欧州携帯電話会社は現在、米国を目指している。エアータッチを買収して米国に足を踏み入れたボーダフォンは1999年9月、ベル・アトランティック(Bell Atlantic)、GTEの携帯部門と合弁してベライゾン(Verizon Wireless)社を設立した。

 米国では、AT&Tワイヤレスが仕掛けた全米サービスは高いローミング費用を払う必要がないため人気を高め、これを皮切りに、全米サービスを目指す携帯大手の買収・再編が進んでいる。ベライゾンの設立もそうした流れの一環で、このほかSBC(SBC Communications)とベルサウス(Bell South)も携帯部門を合併する準備を進めている。また、業界大手のワールドコムは、全米携帯網を狙ってスプリント買収に走ったが、司法省の反対で失敗した。また、全米携帯サービス網を持つネクステル(Nextel Communications)は買収の噂が絶えない。

■業界再編の隙をぬって米国携帯市場を狙う欧州勢

 このように米携帯業界再編を狙って米国市場への参入を狙っているのが欧州勢だ。これを米国勢が迎え打つという状況が現在続いている。たとえばベライゾンで米国市場に展開をはかるボーダフォンは欧州と米国で継ぎ目のないサービスを狙っている。ところがベライゾンはボーダフォンが欧州で使っているGSM方式を採用していない。つまり合弁事業でありながら米国勢は規格を楯に防戦しているとも言える。また、ドイツ・テレコムは約480億ドルで米ボイスストリーム(VoiceStream Wireless)社を買収、GSM方式で米国に切り込んでいる。しかし、同買収は230万加入しかない中堅に破格の値段を払ったと観測されている。

■進出を本格化させるNTTドコモの米国戦略

 こうした米国を舞台とする欧米携帯戦争の一角にいるのが、今春、サンフランシスコに米国事務所を開設し米国進出を積極化させるNTTドコモだ。NTTドコモは資金的にも政治的にも問題が多いとして、米国の携帯電話会社を買収することに積極的ではない。ドコモとしては、iモードで培った技術を米国携帯大手に売り込むことで米国市場に食い込もうと考えているようだ。

NTTドコモ、AOL提携の構図
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 今年始めの段階でNTTドコモが描いていた戦略は、まず米国単独上場で資金力と機動力を身に付け、次に米携帯ベンチャーのボイスストリームなどに出資、その後でベライゾン、AT&Tワイヤレス、ネクステルなどの大手に食い込むと見られていた。

 ところが、2000年春を狙っていた米国上場は、NTTグループ内のごたごたで頓挫。加えて先にボイスストリームへ接近していながら、ドイツテレコムに買収されてしまうなど、このところ米国戦略は苦しい状況になっている。そこで一転、AOLと提携してコンテンツの側面から米携帯大手へアプローチする戦略に切り替えた。また、SBCとベルサウスが設立する新会社では10%から15%の出資さえ狙っている。

■欧州、日本の再建米国での携帯データを狙うAOL

 一方、タイムワーナーとの合併で政府機関の承認がなかなか取れないAOLは、それでも合併後の戦略を打ち始めている。まず、合併発表で、関係が冷えた独バーテルスマン(Bertelsmann AG)の穴を仏ビベンディ(Vivendi)で埋めるだけでなく、同時にボーダフォンとの提携を発表(2月)、欧州市場で携帯電話でのコンテンツ配信を狙っている。これは「AOL Europe」再建を携帯ビジネスを軸に進めるもので、NTTドコモの大幅出資を引き出してAOLジャパンの再建を進めようとしているのも、同じ戦略と言える。

 また、NTTドコモはオランダKPM(KPN Mobile)社に15%出資、共同で独国の次世代デジタル携帯サービスの事業免許を取得している。これでAOLはAOL EuropeやAOLフランスなどを軸にNTTドコモとボーダフォンによるコンテンツ配信を欧州で展開できるという読みだ。

 また中期的な戦略としては、携帯ビジネスで先行する欧州や日本にいち早く食い込んで、今後、本格化する米国での携帯インターネット・サービスに備えようという狙いもうかがえる。

◇◇◇

 今回のAOLとNTTドコモの提携は、まだ最終的な締結まで到っておらず、正式発表もない。また、今年末と予想される締結を前に具体的な内容も分からない。本稿も各種報道を総合した予測の域を出ない。とはいえ欧米を中心に展開する国際携帯サービス戦争でサバイバルを狙うNTTドコモにとってAOLとの提携は重要な戦略ポイントとなることは間違いないだろう。


(インターネットマガジン 2000/10)All Copyright reserved by Ryoji Koike 2000