レポート:小池良次
ヤフーやアマゾン・コム、AOLなどに代表される消費者向けネット・ビジネスは1999年第3四半期の株価暴落を境に低迷している。従来、彼らを支えてきたベンチャー・キャピタルや一般投資家はネット企業の市場占有率重視から離れ、収益性に厳しい目を向けるようになった。
この逆風に、ちょっとしたアイデアでウェブビジネスを展開しているネット企業はいまや廃業や企業統合へと追いやられている。こうしてIPO(新規株式公開)や企業売却による一攫千金の夢が難しくなったいま、消費者向けネット・ビジネスに向かっていた資金と人材ががB2B(Business to Business)や無線通信などの技術系ベンチャーに流れ込むようになっている。こうした背景から最近、B2B市場はにわかに活況を呈している。
とはいえ、インターネットB2Bは新しい動きではない。B2B老舗、コーマース・ワン(commerce One, Inc.)がアマゾン・コムより1年も早い1994年に設立されたように、B2B市場はインターネット・ブームとともに成長してきた。こうしてB2B業界は現在、図2に示すように「情報の断片化」を取り扱うフラグメンテーション・マーケティングから「情報の流通化」を促すトレード・エクスチェンジまで広がる大きな業界に育っている。今回はこの図2に従ってB2B業界全体の流れを押さえてみよう。
シスコオンラインの成功など90年代前半から米国ではECサイトがブームとなり、企業の調達分野でもインターネットの利用が進んで行く。ところが各問屋やメーカーがそれぞれECサイトを開設したため企業の調達担当者はあちこちのホームページをクリックしながら渡り歩き、数しれないアカウント名とパスワードに悩まされることになった。
しかも企業内の会計システムと調達サイトが連動していないので、社内決済のために伝票を書き直したり、在庫管理などで何度も入力を繰り返す必要があった。この現象を情報の断片化(フラグメンテーション)と呼び、電子調達では、大きな問題となった。
インターネットB2Bソフトのパイオニアとして出現したコマースワンやアリバ(Ariba, Inc.)は、この問題を解決することで業績を伸ばして行く。
かれらの提供するマルチカタログ・ソフトは、何百社、何千社という購買先のホームページを統合して、閲覧、価格比較、発注、社内システム(ERP)への情報受け渡しなどの作業を合理化した。このように各企業の断片化したウェブカタログ情報を整理統合する付加価値化をフラグメンテーション・マーケティングと呼ぶ。また、マルチカタログ・ソフトはフラグメンテーション・マーケティングの内でもアグリゲーテッド・プロキュアメント(Aggregated proqurement、集積型調達)と呼ばれている。
こうしてインターネットB2Bを切り開いたアリバやコマースワンは大量の調達先を抱える行政機関や大手企業向けに、マルチカタログソフトをカスタマイズして販売する方法を続けている。
ところで、こうした大手はERP(Enterprise Resource Planning、汎用基幹業務ソフト)を既に導入している所も多いため、コマースワン製品もアリバ製品も主要なERPに連動するようになっている。これは、既に導入している調達システムにマルチカタログ・ソフトを載せる方法と言える。一方、ERPソフトの大手もマルチカタログ・ソフトを独自に提供する動きもある。有名な例としてはSAPが提供しているmySAPだろう。mySAPは、単なる調達系マルチカタログにとどまらず、SAP社が従業員向けにニュースや日程表管理、会計処理や福利厚生サービスなどを取りまとめて自社ユーザーに提供する点が、大きな特徴だ。
そもそもERPは生産や購買、会計や顧客管理など、企業が生産やサービスを行うために必要な基幹業務を対象にした汎用パッケージ・ソフトで、SAP、ピープルソフト、バーン(Baan)、オラクルなどが有名だ。安く短期間に導入ができることから、米国では大手を中心に90年代、積極的に導入されている。このERPブームを追うようにして、インターネットが登場し、ERPソフトは急速にウェブ・インターフェースとVPN(仮想専用線)サービスを採用するWebERPへと方向転換をした。
この背景を考えるとmySAPのような動きはERPのインターネット対応の一環でアリ、その意味では後述するERPの限界を背負っていると言えるだろう。
さて、ERPが話題に出たので、ビジネス・ポータルの話に移る前に、今回のテーマ「インターネットB2B」とERP、EDI(electronic data interchange)の関係を整理しておきたい。
まず、EDIとはなにかについて説明しよう。インターネットが出現する以前から、メーカーや大手流通業者は調達の合理化を目指して電子的に受発注ネットワークを構築してきた。これがEDIであり、自動車や大手流通チェーンなどフォーチュン500社の8割は調達をEDIに依存している。米国ではEDIの標準化が進んでいるおり、ネットワークはVANs(Value-Added Networks)業者経由あるいは自前の専用線網で運営されている。もちろんEDIの大手Harbinger Corp.(アトランタ、ジョージア州)やSterling Commerce, Inc.(ダブリン、オハイオ州)など、同業界も現在、インターネットベースへと急速に移行している。
さて、ERPやEDIとインターネットB2Bを並べたとき、最大の違いは前者が既にある商習慣を合理化することに主眼をおいているのに対し、インターネットB2Bは新しい商習慣や市場を作り出す力があるという点だろう。
専用の基幹業務ソフトに変わって登場したERPは、安く、短期間に導入でき、しかも業務形態に柔軟に対応できることが目玉だった。単純に言えば「導入すればいくらコストが安くなるか」、「どれだけ仕事が早くなるか」でERPの評価は決まる。EDIも同様に「合理化」の枠からはみ出すものではなかった。
ところがインターネットB2Bは、メーカーや卸問屋、小売店や消費者のあり方そして市場関係自体を変えてしまう。デル・コンピュータの例を取れば、インターネットによってメーカーが直接、消費者に販売路を確保できたために、従来の卸問屋や小売店を飛び越える「中抜きモデル」が生まれた。また、後述する取引市場(Trade Exchange)系B2Bでは、販売側と購入側がウェブで取引情報を自由に交換し合う電子取引市場を形成し、公平で迅速な新しい取引関係を生み出している。
このようにインターネットB2Bは、既存の商習慣を変える力があることから、その判断を誤るとトップ企業でさえ、次世代に生き残れない状況を作りだす。その意味でインターネットB2Bに対する企業トップの対応は非常に重要だと言えるだろう。
話を元にもどそう。アリバやコマースワンが提供する大型マルチカタログ・ソフトやERP系マルチカタログは中堅中小には高価すぎて導入できない。
そこでビジネス・ポータルと呼ばれるサイト群が中小企業向けとして注目されている。ポータルと言えばヤフーやネットセンター、AOLなどのコンシューマー・ポータルを思い浮かべる方も多いと思う。これらの人気サイトは一般個人が必要とするニュースや天気予報、旅行情報などを様々な情報源から調達して、整理して提供する。こうした形態をアグリゲーション・ビジネス・モデル(aggrigation business model)と呼ぶが、これを企業向けに展開するのがビジネス・ポータル系だ。
またビジネス・ポータルはビジネス・ハブと業界ハブに分かれる。ビジネス・ハブは情報機器や通信機器、事務機、各種金融サービス、営業コンサルティングなど業種に制約を受けない商品やサービスを最初から網羅して提供する。
たとえば、ファーストソース(www.firstsource.com)のサイトに行くと、ハードウェア、ソフトウェア、オフィース、サプライ、テレコムなど10種類の分野、120万品目以上の商品やサービスが表示されている。企業の調達担当者は、こうしたビジネス・ポータルの会員になることで複数のサイトを渡り歩く必要も、複数のパスワードに悩まされる必要もない。一般的な商品・サービスだけに限られるが、マルチ・カタログの恩恵に預かれるわけだ。
このように調達でも生産やサービスに関わらない間接財の調達に特化するビジネス・ポータルをビジネス・ハブと呼んでいる。中堅企業向けではファースト・ソース(First Source)社やインテリシス(Intellisys)社、コンカー(Concur technologies)社、パーチェスプロ(Purchasepro)社などが代表的なビジネス・ハブといえるだろう。
このほか零細企業や個人向けにはステープルズ・コム(Staples.com)やオンビア(Onvia)社、ワークス・コム(Works.com)、スモールオフィース・コム(smalloffice.com)などが健闘している。
またヤフーは最近、従業員向けにニュースや日程表管理、住所管理、各種ECなどを提供するビジネス・ヤフーというサービスを発表した。そのほかエキサイトも同様のサービスを展開している。これらも従業員の福利構成、事務合理化を狙った従業員向けサービスで、企業の生産やサービスに直接関わる調達には関与していないが、一種のビジネス・ハブといえるだろう。
次に業界ハブは特定業種に絞って、専門的な品揃えを行うことから、企業の生産に直接関わる生産材の販売を狙うことができる。
たとえば、印刷用品の卸売りを展開するプリントネーション(Printnation.com)は業界ハブの典型例だろう。同社は「街の印刷屋さん」と呼ばれる中小の印刷会社にウェブを使って資材を販売している。全米には約5万社の印刷会社があるが、その8割が従業員20名以下の零細企業で、少量ではあるが紙やインクなどを定期的に購入する。同社のサイトを訪れると紙やインク、DTPソフトと言った製品が印刷形式別やメーカー別などで並んでいる。また、最近ではオークション・ページも開設して、印刷機械の取引も盛んだ。決済は、クレジットカードが中心で、注文は米国だけでなく全世界からくる。
また、同じ業界ハブではメーカー側あるいは購買側と違う立場を取る例もある。たとえば生命化学業界を対象としたケミデックス(Chemidex)社は大学や企業の研究所に化学関係の資材を提供している。同社の場合は「購買先側の利便」を狙って競合する商品を広く品揃えする。
一方、各種石油化学製品の卸しビジネスを展開するケムポイント(Chem Point)社は「取り扱い量が大きいこと」「メーカーが系列販売を展開していること」などから1科目あたり1メーカーに取引を絞るメーカー側に立った業界ハブだ。
さて、ここまでの話を大雑把にまとめよう。企業情報の断片化を防ぐアプローチをとるインターネットB2Bとしては、マルチカタログ系とビジネス・ポータル系に分かれる。企業側から調達の合理化を狙うのがマルチカタログソフト系で、卸し問屋など販売側から合理化を狙うのがビジネスポータル系と言えるだろう。特にインターネット時代の卸売業を目指す業界ハブは、既存卸し問屋がインターネットB2Bで商権を守ろうという意図が見える。
情報断片化を利用したインターネットB2Bが比較的早くからビジネス化されたのに対し、最近生まれたのが「情報流動化」を狙ったインターネットB2B群と言えるだろう。トレード・エクスチェンジとかマーケット・プレースなどと呼ばれるこの分野はB2Bの中でも、いま一番注目を集めている。なお本稿ではこれらを取引市場系と訳しておく。
企業が調達する資材はカタログにある定番商品だけではない。ウェブサイトの構築や販促キャンペーン、情報ネットワークの構築など、プロジェクト単位で発注する仕事も多い。こうした調達に対応するサイトとして生まれたのがRFPs(Request for proposals)系サイトといえる。ここでは個別発注市場型と訳しておく。これはオンライン上で発注側が仕様を公開し、受注したい企業が見積もりを提出する、一種の合見積もりサイトと考えればよい。
こうしたサイトを利用することで発注側は、多くの企業から見積もりを取れる一方、受注側は発注企業の発掘が容易にできるメリットがある。
ここではビズバイヤー・コム(BizBuyer.com)の例を紹介してみよう。同社はビジネス・ハブと並行して個別発注市場型にも力を入れており、同社のサイト上で取り交わされる月間取引総額は5000万ドルにも達している。一件の平均額は8000ドルで月間の応札回数は2万5000件にのぼる。既に登録しているベンダーの数は2万社以上にもなっている。
最近の成約例としては、ECのコンサルティング(25万ドル)、ウェブサイト構築(18万ドル)、コンサルティング(15万ドル)、ウェブデザイン(10万ドル)、メーリングリスト(10万ドル)などとなかなかの繁盛だ。
マルチカタログなどと違って、個別発注市場型は多数の発注者と多数の受注者が同時に利用し合う「多対多」対応という特性を持っている。参加企業を広く集めなければならないにも関わらず、一種の仲介斡旋を行うため参加企業の信用調査はサイトの運営者が責任を持たなければならない、といった難しさがある。こうした個別発注市場型に必要なサービス要件をビズバイヤー・コムのバーナード・ロウバット(Bernard Louvat, CEO)氏は、次のようにまとめている。
〈発注者向けサービス〉
01)応札企業の信用調査、段階評価システムの導入
02)公開に関する専門家のアドバイス・サービス
03)顧客満足度の保証(Satisfaction Guarantee)
04)合見積もり過程の適正制御
05)応札者との直接交渉(交信)の確保
06)ライブチャット/メッセージボード
07)取引内容のオンライン報告システム/優待システム
〈受注者向けサービス〉
08)取引の透明性、公正な取引の確保
09)発注者の信用調査
10)取引科目別の管理手法
11)合見積もり方法の多様化、個別化
12)発注者との直接交渉(交信)の確保
取引市場系B2Bサイトの中でも大きな取引額を扱うため脚光を浴びているのがISEs(industry sponsord exchanges)とITEs(independent trading exchanges)だ。本稿ではISEsを業界統合市場型、ITEsを私的取引市場型と訳しておく。
既に説明した個別発注市場型(RFPs)は販売促進やウェブデザインなど生産に直接関係しない間接材系が中心だが、業界統合市場型や私的取引市場型は生産に直結する資材を中心に取り扱う。
またゼネラル・モータース、フォード、クライスラーによる自動車部品取引サイトやボーイング、レイセオン(Raytheon)、BAE System、ロッキードによる航空機部品取引サイトと言ったように、業界統合市場型は業界大手が共同して構築する。こうした大手による取引市場は業界を水平に統合することから水平統合取引市場(Horizontal Exchanges)と呼ばれている。なお、こうした業界大手による電子取引市場の構築は一種のカルテル行為を生み出す可能性があるとして、連邦取引委員会などが警戒感を高めている。
ところで、既に述べたマルチカタログ大手のコマースワンやアリバも、この取引市場系B2Bに進出している。たとえばゼネラル・モータースはコマースワンと組んで部品調達の取引市場を開設しようとしている。これは企業単位の縦割り形態を取るところから垂直統合取引市場(Vertical Exchanges)と呼んでいる。
過去1年ほどの間に、米国では600を超える取引市場サイトが開設されている。その多くは、私的取引市場と呼ばれるタイプだ。
たとえばアビネット(Abinet.com)社は国際電話の回線を売り買いする私的取引市場だ。同社のサイトでは、各電話会社が卸売りしている国際電話の価格が画面を飛び交っている。全米に数百社ある長距離電話会社は、同社のサイトで安い国際電話を調達することができる。
アビネット社の設立者アネックス・マシンスキー(Alex Mashinsky)氏は、同社サイトの長所を次のように述べている。 01)コスト削減 ネットワークオペレーションコストの削減 02)スピード 従来は、受注/発注相手の発掘、交渉、与信、社内決済、品質チェック、決済に23週間かかったが、いまや数日となった。 03)リスクの低減 営業リスク、信用取引リスクの低減 04)収入の増加 代替チャンネル、価格対品質の選択、商品到達機会が増加して、収入があがる。
従来、こうした付け合わせ取引はブローカーとか専門商社が取り扱っており、相手によって値段を変えたり、品薄になるのを待って高く商品を売りつけるといった不透明な取り引きが横行していた。これは取引内容を商社やブローカーだけが握っており、販売側も購入側も正確な取引情報を得られなかったために発生する。
ところが取引市場型では、刻々と変わる商品価格が誰でも公平に見ることができる。つまり、情報を流動化させて迅速かつ公平な取引を実現させている。この「情報の流動化」こそが取引市場型の基本と言える。この特徴のおかげで売り手も買い手も取引内容が明確に分かるため、取引における満足度が高い。また、運営側は取引手数料という形式で利益をあげるため信用度も増す。
こうした長所から取引市場型B2Bは急速に成長しており、ヤンキー・グループの推定によれば2004年にはインターネットB2Bの約2割、7800億ドルに達するとしている。 ◇◇◇
インターネットに代表されるネットワーク社会は消費者向けネット・ビジネスのブームという第1ラウンドが過ぎ去り、企業間取り引きの電子化(B2B)という第2ラウンドに入ろうとしている。このB2Bは、消費者だけを巻き込んだ第1ラウンドに比べ、その社会的影響が遥かに大きいと言えるだろう。
今回は、インターネット業界の全体構図をまとめてみた。次回は、サプライチェーンへとより視野を広げB2CとB2Bの関係を探ってみたい。
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