レポート:小池良次
1985年に設立されたAOLは本体が2000万人、グループ全体の登録会員数は9750万人にも達する巨大なオンライン企業だ。スティーブ・ケイス会長はAOL自身をコンテンツ・アグリゲーション・ビジネス(番組編成事業者)と呼んでいる。これはAOLがディズニーやタイムワーナー、バイアコムなどの総合メディアに属しているということをあらわしている。徹底分析の第2回目は新世代総合メディア事業を目指すAOLタイムワーナーの姿とその競合相手について検討してみたい。
AOLがタイムワーナー合併を発表したとき、合併と同時に一連の営業契約を発表している。たとえばタイムワーナーのファッション誌インスタイルの掲載やワーナー・ミュージックの音楽クリップを使った営業などを手始めに、ムービーフォン(MovieFone)を使ったワーナー・ブラザース映画のプロモーションやCNNニュース・クリップの提供などがAOL会員向けに展開されることになっている。逆にタイムワーナー側はAOL会員向けに雑誌購読やケーブル・テレビ番組割り引き、映画の割引などを展開するほか、ワーナーショップでAOLグッツを販売したり、AOLお試しCDの配布そしてロードランナーへのインスタントメッセージ採用などを決めている。
こうして両社の提携内容を見ると古いタイプの総合メディア(新聞、雑誌、音楽、映画)と新しいメディア(チャット、デジタル音楽配信、オンライン販売)が提携を展開している様子がよく分かる。言葉を変えるとタイムワーナーは非オンラインに弱い総合メディア企業であり、AOLはオンライン型に強い総合メディア企業とあらわせる。ここにAOLタイムワーナーが模索する新しい総合メディア・ビジネスの姿があるようだ。
このようにメディア業界をオンラインと非オンラインに分けると企業間や業界間の動きがよく見えてくる。それを図式化したのが「主要プレーヤーの侵略経路」だ。ここには米国のメディアおよびネットワーク業界の大手20社を取り上げている。
図の構成を少し説明しよう。左のピンクがオンライン系のメディア企業群だ。今回の主役AOLのほかMSNやヤフー、ライコスやエキサイトなどいずれもインターネット・ブームで急成長してきた新しい企業ばかりだ。一方、右側に位置するディスニーやタイムワーナーなどの企業群は伝統的なメディア企業といえる。新聞王として有名なルパード・マードック氏が率いるニューズ社以外はいずれも米国企業となっている。映画、娯楽場運営の大手ディズニーや出版から映画・音楽まで持つタイムワーナーなど、どの企業も娯楽サービスでは著名なブランドを数多く持っている。
そして古いメディア業界と新しいオンライン業界の中間に位置するのがネットワーク業界ということになる。上から4社が地上波TVの大手。続く3社がケーブル・テレビ業界の大手。そしてAT&T、SBC、ベル・アトランティックの3社が電話業界の大手という構成になっている。なお電話業界の大手としてはMCIワールドコムが大きな存在だが、同社は法人向けビジネスが中心で、本稿のテーマである消費者市場ではほとんど存在がないので省略してある。
こうして図式化すると、各プレーヤーがどのような形でグループを形成しているかがよく分かる。では個別のグループ毎に新生AOLタイムワーナーとの関係を考えてみよう。
伝統的な総合メディア企業の中でもインターネットにいち早く動いたのがディズニーだった。4大テレビネットワークのABCを傘下にもっているほか、スポーツ専門チャンネルのESPN、ポータル・サイトのゴーネットワークスといったメディア企業を軸にスポーツと子供向けの娯楽番組をインターネット面から押さえる戦略を展開している。
AOLタイムワーナーの競争相手としては、もっとも手強いと見られるのがディズニー・グループだろう。広帯域化にともないインターネットのテレビ化が進んでも十分に耐えられるだけの映像資産とブランド力をディズニーは持っている。問題は地上波というインターネットに向かないネットワーク系を持っているところだ。ケーブル系か電話(DSL)系への経路を確保したいところだが、ディズニーにはその気はなさそうだ。
ただ、現状では両社の間に住み分けが見られるのも事実だ。ディズニーは子供・家族向け映画、インターネット系ではESPNを中心とするスポーツ番組に力をいれている。タイムワーナーが強みとする報道(CNN)やアクション系映画などとは直接ぶつかる状況にはないといえる。インターネットのテレビ化が進んでも、この住み分けがそのまま踏襲される可能性はたかいだろう。
一方、フォックスを持つニューズ社は米国で影が薄い。ニューズ系列は、グループ内にウェブ・プロダクションやインタラクティブ・エージェンシーなどをひとそろい抱えているが、花形となる米国のオンライン・メディアがいないことが問題だ。そのため米国のインターネット・シーンでニューズの存在はほとんどないといえる。またニューズ社は香港などの北アジアと欧州でのインターネット展開に積極的で、競争が激しい米国市場では二の足を踏んでいるといわれる。またディズニー同様、ネットワーク企業では地上波、衛星というマスプロ型しかもっていないことも、インターネット展開を苦しくしている要因といえるだろう。
こうしたところからAOLタイムワーナーとニューズの競合が起こるとすれば、米国以外の地域だろう。欧州では衛星デジタル放送を軸にニューズはインターネット戦略を進めている。一方、AOLは当初、欧州の大手メディア企業バーテルスマンと提携し、AOL欧州の展開をはかったが、タイムワーナー合併を期に手切れになる。これは欧州でバーテルスマンとタイムワーナーが競合関係にあるためだ。そこでAOLは欧州各国のメディア・コンテンツを必要とする関係から違う欧州メディアとの新たな連係を検討している。提携相手がどこにせよニューズとの欧州対決の可能性は極めて高いといえるだろう。
また香港などの北アジアでもニューズはスターTVを軸とする展開をはかっている。ここでもAOL香港との戦いが予想される。日本ではニューズがあまり影響力を持たないところから両社の直接対決は起こらないと思われる。
次にMSNとNBCの関係について触れよう。当初、コンテンツ不足、特に報道系に悩むMSNとネットワーク技術を期待するNBCの利害が一致して両社は合弁事業MSNBCを設立、共同歩調を取ってきた。
しかし映画や音楽など幅広いコンテンツを提供できるだけの総合力にNBCが欠けること、そしてテレビ番組とウェブの連動が人気を得なかったことなどで関係は冷却期間にあるといえる。MSNBCのホームページもテレビ番組にウェブを補完的に加えるだけに終わっている。MSNもNBCも今は独自のウェブ戦略を模索している状況で、両社の距離は遠くなっている。
そうなるとMSNとAOLタイムワーナーが直接ぶつかることがあるか。あれば、どのような点かに注目が集まっている。ところでMSNがインスタント・メッセージの業界標準を巡ってAOLと対立し、結局敗北したことは記憶に新しい。こうしたところから一見、両社の対決はありそうだが、実力的にはAOLタイムワーナーがMSNを圧倒することになるだろう。
一方、NBCは単独ではAOLタイムワーナーに対決する場面は訪れないだろう。彼我の差があまりに大きいことはNBC側にとって明白だからだ。
さて順番から行くと次はAT&T/エキサイト@ホーム組だが、これは複雑な資本関係が絡むため後で詳しく検討してみたい。そこで単体で残っているヤフーやライコス、SBCやバイヤコムなどを考えてみよう。
まずはオンラインメディア業界に残るヤフーとライコスだが、AOLタイムワーナーという重量級のメディアが出現したことで、彼ら単体で残って居る企業は今後の戦略に大きな影響を受けることとなる。
ヤフーとライコスはAOLタイムワーナー出現前は、高度成長が戦略の基本だったといえる。つまりAOLがこれまで展開してきたように、できる限り会員数やコンテンツ、系列サイトを増やし巨大化をすすめることだ。これによってネットワーク業界および非オンラインメディア業界各社への交渉力を高めることが重要だった。この基本戦略は今後も重要な柱として残るが、AOLタイムワーナーが活動を本格化させる広帯域時代になれば単独で存在することは大きな不利益となるだろう。つまりAOLがテレビ局のように音楽や映画を流し、テレビショッピングで収益をあげるようになると、コンテンツやネットワークを相乗りしている立場は収益的にも運営形態的にも弱い立場に追いやられるからだ。これはなぜAOLタイムワーナーが脅威かを見ればよく分かる。
AOLタイムワーナーの強みはコンテンツ的にもネットワーク的にも自社の資産を持っているバランスの良さといえるだろう。これを視覚的に捉えるために書いたのがAOLタイムワーナーのバランス表だ。
これは広帯域時代の総合メディアの力を分析するために6つの要素を取り出し、それぞれの強弱をグラフ化してみた。まず番組関連としてオンライン・コンテンツ力、オンライン・ショッピング力、映画・テレビ・音楽・出版力という3つの要素をおいた。つぎに配信経路としてケーブル・テレビ網、電話網、放送網の3つの要素をおいた。
こうしてみるとAOLタイムワーナーは比較的バランスの取れた構成になっているのが見えてくる。同様に、既に解説したディズニーの図と比較するとAOLタイムワーナーの強敵になるという分析も直感的に分かるはずだ。ディズニーのバランス図はオンライン・コンテンツでゴーネットワークが比較的力がある一方、映画やテレビなどの旧メディア資産も沢山ある。しかも放送網によるマスメディア広告力があることはAOLタイムワーナーより優れている。
ではヤフーとライコスのバランス図を見てみよう。両社はサイズの違いはあれど、図形的には相似といえる。つまりオンライン・コンテンツとオンライン・ショッピングだけしか企業資産を持たないため逆三角形となっている。
これでは映画や音楽などが集客力となる広帯域時代にうまく適応できない可能性が高い。そこで、機能補完の観点から近い将来買収や合併という選択を取る可能性が高まったと言えるだろう。
ここで市場評価額によってヤフーとライコスの差が出てくる。日々変動はあるがヤフーの市場評価額は約900億ドル(約9兆6000億円)前後。ライコスは約67億ドル(約7170億円)で両社の差は約13倍にも達している。そのためライコスは大手からの買収目標になる一方、評価額が高いヤフーを買える企業は少なく、買収される対象にはなりにくい。つまりライコスはある程度の企業規模を持つ企業なら、いつでも買収できる。最悪の場合、敵対買収も可能でライコス自身の経営戦略よりも潜在的な買収元企業の戦略に左右されやすい立場にあるといえる。
機能補完的に考えるとバイヤコムやニューズが自社オンライン機能の強化として買収を行うことはあり得る。特にバイアコムはMTVオンラインで成功しており、AOLタイムワーナーとの関係から考えるとライコス買収は手頃な戦略といえるだろう。
一方、ヤフーは市場評価額が大きいの自らの戦略にそって買収や合併を展開できる状況にある。たとえばディズニーの市場評価額は641億ドル(約6兆8000億円)でヤフーよりやや低い。そのためヤフーからディズニーに接近する場合、合併という手段を行使できるだろう。ただAOLタイムワーナーとの対抗上とはいえヤフーがディズニーと組む可能性は低い。ディズニーはメディア会社でも植民地型の経営をすることで知られている。ディズニーに買収されたABCなどを筆頭に、買収後ディズニー式経営に馴染まない経営者はどんどん駆逐している。この独特の経営法式がヤフーのオープンな経営とはとても融合できるとは思えないからだ。またニューズとヤフーが合併する可能性も低いだろう。ニューズは非アメリカ市場が中心であり、米国でまだまだ戦わなければならないヤフーにとって、相乗効果が低いからだ。
のこる総合メディア企業というとバイアコムがある。パラマウント映画やMTVなどを持つバイアコムのサムナー・レッドストーン会長も個性の強い人物として有名だが、ディズニーよりはヤフーに歩み寄る可能性は高いと言えるだろう。このように映画や音楽など伝統的なメディア資産を確保するという観点から考えればバイアコムとの合併がもっとも軟着陸といえるだろう。
次にヤフーに関してあえて違うストーリーを考えてみたい。まずAT&Tがヤフーを買収するという可能性だ。これはヤフーにとってケーブル・モデムの配信経路を確保できる点で大きなメリットがある。もしAOLがタイムワーナーケーブル(TWC)をベースにケーブルモデムで事業を伸ばし出すと、このヤフー・AT&T連合の可能性はでてくるだろう。ただAT&TとしてはTCI、メディアワンという大型買収を終えたところで、資金的にも人材的にも余裕がない状態にある。そのためAT&Tがヤフーを買収するというシナリオが直ぐに起こる可能性は低い。
ではDSLへの配信経路を確保する考え方からSBCコミュニケーションズやベル・アトランティック(BA)という地域電話大手とヤフーが手を組む可能性はどうだろうか。これは時間との戦いといえる。SBCもBAも当面の課題は長距離電話市場への進出だ。もちろん全米インターネット幹線事業もこの長距離電話市場への進出と対をなしている。
そう考えると資金的に余裕があるとはいえSBCもBAもDSLによるコンテンツ配信を収益事業の柱として検討するのは、だいぶ将来になると考えられる。つまりSBCやBAによるヤフー買収は当面起こらないだろう。逆にヤフーが両社に合併を申し込むこともないだろう。ケーブルモデム業界のようにISPを限定する流儀とは違い、DSLではフリー・アクセスが基本だ。ヤフーはSBCやBAと合併しなくても、ビジネス・パートナーとしてDSLの恩恵に十分あずかれるからだ。
このようにヤフーにとって、現状は大きなバクチを打つべきときではないということが一連の分析から分かる。あと半年でも1年でも現状の高度成長戦略を継続、その間AOLタイムワーナーの出方を見ながら次の策を考えるというのが同社の最適な結論と言える。
さて、AOLタイムワーナーとAT&Tの今後の関係はどうなってゆくのだろうか。ケーブル網開放で激しい駆け引きを展開してきたAOLとAT&Tだが、いまやお互いが難しい権利関係に入っている。これを詳しく考えてみよう。
まず、主要プレーヤーの侵略経路図をもう一度見てみよう。ここでAT&T/エキサイト@ホームの位置を見ると非オンラインメディア業界に関係する部分が抜け落ちていることがよく分かる。このアンバランスこそAT&Tが自社のエキサイト@ホームだけにISPを限定する戦略の原因がある。つまりISPを自社グループで押さえることで独占的な地位を固め、映画やテレビなどのメディア購入を有利に進めたいという計算だ。
これはAT&T自身が好んで取った戦略と言うより、伝統的にケーブル業界大手がコンテンツ業界に取ってきた対応といえる。それがエキサイト@ホームによって継承され、それを買収したAT&Tがそのまま使っているというのが実状だ。とはいえAT&TがTCI系ケーブル網に対するアクセスを限定していることにはかわりがない。
ただ、AT&T自身はケーブル・モデム事業をやりたくてTCIやメディアワンを買収したわけではない。AT&T第一の目的はケーブル電話サービスだ。SBCやベルアトランティックと対抗して各家庭への電話サービスを展開することこそ、AT&T戦略の要をなす。ケーブルモデムの開放で問題をこじらせ、ケーブル電話サービスに悪影響を与えたくないというのが本音だろう。
一方、タイムワーナーとの合併を決めたAOLは急速にケーブル開放への意欲をなくしている。既にAOLタイムワーナーはケーブル回線の開放を一定条件を満たすISPだけに限る姿勢を示している。これに応じて連邦通信委員会もAT&T支援の態度を再度取っている。どうやらケーブル・モデムにおけるISPオープン構想は実現されそうにない状況になってきた。
つまりAT&TとAOLタイムワーナーの関係を考える場合でもケーブル網開放はもはや大きな問題ではなく、ケーブル電話実現こそが重要な判断基準となるわけだ。その意味で注目したいのがAT&Tとタイムワーナーが1999年に発表したケーブル電話に関する提携だ。次に、この提携を簡単に押さえてみよう。
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AT&Tとタイムワーナーのケーブル電話会社設立計画
1999年春AT&Tがタイム・ワーナー(Time Warner)とケーブル電話で提携、新会社を設立すると発表した。AT&TはTCI買収直後から業界第2位のタイム・ワーナーとケーブル電話、ケーブル・モデムなどの提携交渉をすすめていた。ケーブル網デジタル化の巨額投資に苦しむタイム・ワーナー側はAT&Tの巨大な資金力および高度な通信網管理技術そして既存の通信網のメリットに引かれていた。しかしAT&Tがケーブル網の広範な周波数帯を求めるなど厳しい条件に交渉は難航を続けていた。 新会社はAT&Tのブランド名を使ってケーブル電話の販売を進め、1999年は1〜2都市で実験サービスを展開、2000年から本格的な商業サービスを展開すると発表した。また新会社の株式比率は77.5%がAT&T、残りをタイム・ワーナーが出資する。 新会社はタイム・ワーナー・ケーブルから向こう20年間のケーブル電話権を独占的に得る見返りとして、1軒あたり15ドル総額約3億ドルを支払う。またケーブル電話の加入者あたり月額1ドル50セント(見直し上限6ドル)をタイム・ワーナー・ケーブルに支払う。そのほか各家庭に提供する端末機器の負担や電話網建設の通信機器負担もあり、一軒当たり300ドルから500ドル程度の投資となる。 一方、タイム・ワーナー側は1999年以内にネットワークのデジタル化を85%達成し、2000年末までに全て完了することを約束している。 |
AT&Tがタイム・ワーナー(Time Warner)とケーブル電話で提携、新会社を設立すると発表したのは1999年春のことだった。AT&TはTCI買収直後から業界第2位のタイム・ワーナーとケーブル電話、ケーブル・モデムなどの提携交渉をすすめていた。ケーブル網デジタル化の巨額投資に苦しむタイム・ワーナー側はAT&Tの巨大な資金力および高度な通信網管理技術そして既存の通信網のメリットに引かれこの新会社設立の提案に応じた。なおこの新会社の当時の発表内容については囲み記事を参照して欲しい。
驚くことに、これだけ詳細な仮合意発表をしていながら、1年近く経った執筆時点でも両社は最終合意に達していない。これはいくつかの理由が考えられる。まずタイムワーナー側のデジタル網建設スケジュールに無理があること。一方、AT&Tは予想以上にデジタル化、ケーブル電話整備に費用が掛かり、採算的な面で見直しを迫られていること。電話会社側のDSLサービス普及率が予想ほど急テンポで進んでいないことなどがあげられる。
いずれにせよ、AT&Tにとってタイムワーナーのケーブル網を使った電話サービスは実現が遠くなっているのが現状だ。この状態はタイムワーナーがAOLと合併したことで、より膠着の度を増すことになるだろう。
一方、AOLタイムワーナー側もAT&T関連で難問を抱えている。タイムワーナー・エンタテインメント(TWE)の資本関係だ。このTWEはタイムワーナー・ケーブル(TWC)、HBO(映画専門チャンネル最大手)、ワーナー・ブラザース映画、ロードランナー(ケーブルISP)の4社からなるタイムワーナーの中核をなす事業体だ。もちろん筆頭株主はタイムワーナー本社だが、株式の25%はメディアワン社が所有している。このTWEはマルチメディア・ブームの遺物ともいえる。90年代始めタイムワーナーは大型買収を展開、マルチメディア企業として注目を浴びた。ビデオ・オン・ディマンドなどの総合デジタル・サービスを展開するため、また、その資金調達の一環として生まれたのがTWEでタイムワーナーの中核事業を集める形になったのもそのためだ。これには地域電話の大手USウェストなども出資した経緯がある。なおUSウェストはタイムワーナーと紆余曲折の末、手切れとなり現在はTWEと関係はない。
問題はAT&Tがメディアワンを買収(現在、政府機関の承認待ち)したことに始まる。この買収によりAT&TはTWEの主要株主としての発言権を得るわけで、今後AOLタイムワーナーが展開するビジネスにAT&TはTWEを通じて関与することができるからだ。これはAOLタイムワーナーにとっては頭痛の種と言えるだろう。そもそもAT&Tがメディアワン買収を行う前からタイムワーナーのレビン会長はTWEを100%子会社化したいと狙っていた。ところが当初メディアワンが出資した25億ドルのTWE株式はAT&Tの買収によって急騰、150億ドルまで上昇してしまった。そしてAOLとの合併は、ますます株価をあげメディアワンの所有するTWE株の総評価額は200億ドルともいわれるまでになってしまった。これほど高価では簡単に株を買い戻すわけには行かない。
ただ買い戻しのチャンスがないわけではない。もし無条件でメディアワンの買収が完了するとAT&Tはエキサイト@ホームの筆頭株主として支配権を持ちながら、ロードランナーにもTWE経由で支配権を行使できることになる。つまりケーブルモデムISP業界をAT&Tが独占的に支配できることになる。これはメディアワン買収審査をしている米司法省でも議論の的となっており、メディアワン買収承認の条件としてTWE株の放出を求められる可能性が高い。
とはいえ現金収入が少ないAOLを抱え込んだタイムワーナーとしては、TWE株買い戻しの資金は容易ではない。またAT&Tもせっかく持っているAOLタイムワーナーへの影響力をそのまま放出することもしないだろう。何らかの影響力を温存できる形でTWE株の放出交渉を進めることになるだろう。あるいはAT&Tが本来狙っているタイムワーナー・ケーブルでの電話サービス交渉を有利に展開するために、このTWE株を利用することも考えられる。
こうしてAT&T対抗上とったタイムワーナーとの合併だったが、AOLはAT&Tとより複雑な利害関係に陥ったと言えるわけだ。
さて、最後にAOLタイムワーナーを取りまく業界全体の動きに触れてみたい。まずなぜケーブル・テレビ業界が主戦場となって再編が展開されているのかということだ。
ケーブル・テレビ業界は90年代、地盤沈下に悩んできた。古いアナログ設備、ほとんど伸びが望めない視聴者数、厳しい規制で新事業の展開難、低迷する株価による資金調達力の低下などで身動きがとれずにいる。
そんな経営基盤の弱体化は他業種から見ると魅力的な買収対象に映るのはしかたがない。特にインターネット・ブームで業界全体が急成長を続けている電話業界にとっては、格好の狙い目といえるわけだ。
マルチメディア・ブームの昔から『放送と通信の融合』という言葉が使われてきたが、制度的(=業界)な面から見ると米国では低迷するケーブル業界の大手がほかの業界主要企業に買収されることで融合が進もうとしている。それは近年始まったことではない。以前からケーブル業界トップのTCI(Telecommunications Inc.)は電話会社への身売りを模索し続けてきた。これは結局TCIとメディアワン(MediaOne)を買収し、AT&Tがケーブル業界のトップ企業になる形で実現した。そして今回はAOLが業界2位のTWC(Time Warner Cable)を手中にしたわけで、この一連の動きが象徴的な出来事と言える。
つまりケーブル・テレビ業界の地盤沈下が放送と通信の垣根を取り払う役目を果たしているという皮肉な状況にあるわけだ。言葉を変えれば、90年代始めに確立していた放送と通信業界の垣根がケーブル業界を舞台に崩れさろうとしている。こうして新生AOLタイムワーナーは、この放送と通信の融合という業界最前線で事業を展開するキャスティング・ボートの役割を担うことになる。
TCI、TWC、メディアワンと大手ケーブル事業者は買収され、ケーブル業界の陣取り合戦は一段落付いた。では、放送と通信の融合という言葉通り、つぎは地上波業界が買収の対象になって行くのだろうか。
筆者はそうは思わない。デジタル化ができずインターネットとの親和性に欠ける現在の地上波はオンライン・コンテンツを配信する媒体としての魅力がないからだ。またLMDSやMMDSといった広帯域無線サービスが本格化するのはだいぶ将来であり、しかも企業向けサービスが先行されるだろう。ということで放送と通信の融合はケーブルモデムあるいはxDSLで実現されて行くというのが妥当な解釈と言える。
また一般論として両ネットワーク・ビジネスがいずれも似たようなサービス内容に転じてくると、次第に重要度を伸ばしてくるのが番組を供給する番組提供者となる。その意味では現在のAOLタイムワーナーはもっとも優位な位置を確保している。とはいえ、AOLタイムワーナーが広帯域サービスで今後もリードできるかはまだ分からない。米国政府の促進要請にも関わらずケーブルモデムにせよxDSLにせよ普及の速度は予想外に遅い。多くの家庭にこうした高速回線が入り、広帯域サービス網が一般化するには最低3年は掛かるだろう。この間、AOLタイムワーナーが事業的にリードし続けられるかは誰も予測できないからだ。
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さて、新生AOLタイムワーナーとそれを取りまく競合相手の分析はいかがだったろうか。史上最大の合併は、今後1年前後の間にインターネット娯楽業界を目指す企業に影響を深めることになるだろう。それはヤフーなどの去就に大きな影を投げかけるとともに、AT&Tの経営戦略に大きな制限を加えた。ただ広帯域戦争は今後3年は掛かる息の長い戦いだ。今回紹介した20社のトッププレーヤーがどう合従連衡して行くか、まだまだ予断は許せない。