FCCが白日の下にさらした米国インターネットの実態

レポート:小池良次

 消費者が利用できる実際の通信速度は、ネットワーク事業者が広告などで公称している速度の半分程度にすぎない──。米連邦通信委員会(FCC)が2010年8月中旬に発表したリポートが注目を浴びている。

 米国ではブロードバンドインフラを保有する通信・CATV事業者を規制する目的から、スマートフォン向けに独自のアプリケーションを配布するなどしてインターネットの利用状況を詳しく調査してきた。FCCはその内容を、逐次リポートにして発表してきたが、今回はその第4弾として「パフォーマンス・リポート」を公開した。

 

■ 少数のヘビーユーザーが大量のトラフィックを消費

FCCが米アップルのiPhone向けに

提供したブロードバンド測定アプリ。上りと下りの通信速度と遅延時間を計測できる。

 「Broadband Performance OBI Technical Paper No.4」と題された報告書では、ネットワークの実情を示す数字がいくつも並んでいる。具体的には以下のような数値だ。

 報告書の中で、「トラフィック消費量の差」と「公称スピード」の2点は特に注目を集めている。トラフィック消費量で平均値(9Gバイト)と中間値(2Gバイト)が「約5倍も違う」という調査結果によって、以前から懸念されていたヘビーユーザーによる「ネットワーク占有」の実態が数字的に改めて明らかにされた。

 さらに、トラフィック消費量が月間1T(テラ)バイトを超えるヘビーユーザーもいて、大量消費ユーザーの上位1%がネットワークトラフィックの約25%を消費していると指摘した。上位3%なら40%を、上位10%は70%、上位20%は80%のトラフィックを消費している。ブロードバンド事業者は、こうした偏在する利用状況を以前から指摘していた。

 現在の米国のブロードバンドサービスは速度に応じた月額固定料金が主流で、トラフィックの消費総量に制限を設けていない。しかし、ユーザーの上位2割がトラフィック全体の8割を消費している状況を受け、ブロードバンド事業者は、利用者の不公平をなくすため「総量規制を導入すべきだ」と主張してきた。ブロードバンド事業者は2割の大量消費ユーザーを支えるために大きな設備投資を行っており、その資金はあまり利用しない大多数のユーザーからの料金で賄っている状況にあったからだ。

 例えば大手CATV事業者のタイムワーナー・ケーブルは08年春に、テキサス州ボーモント市で総量規制の実験を行った。これは月額29.95ドルの768Kbpsプランでは月5Gバイトまで、月額54.90ドルの15Mbpsプランでは月40Gバイトまでと上限を設け、それを超えた場合は1Gバイト当たり1ドルの追加料金を徴収するというものだ。CATV最大手のコムキャストは08年10月1日から月間250Gバイトの上限を超えるユーザーに、利用ペースの緩和を促すなどの取り組みをした。AT&TもDSLサービスに対して総量規制をネバダ州リノとテキサス州ボーモントで実験した。しかし、これらの実験は市民団体や行政機関から反発を受け、最後まで続けていたAT&Tが10年6月に実験を終了。総量規制の導入は頓挫した。

 とはいえ、トラフィック消費量と料金負担の不公平問題は、これで解決されたわけではない。ブロードバンドのオープン化を目指す「ネットワーク中立性問題」などでブロードバンド事業者への不信感を深めた市民団体や政府関係者は、総量規制の導入にも厳しい姿勢を示した。しかし、こうした総量規制反対派は、不公平な負担を続けるユーザー(サイレントマジョリティー)の救済について具体的な提案や行動を行っていない。

 ブロードバンド事業者は急速に増加を続けるトラフィックと、それに伴う設備投資の継続をなんとか緩和したいとする意図から、総量規制を主張してきた。ブロードバンドサービスが高度化する中で月額定額制という“どんぶり勘定”はヘビーユーザーとライトユーザーの間に不公平を生んでいるが、両方が納得する料金体系を構築することは難しいのが現状だ。

 

■ 実効速度は事業者による公称速度の約半分

 今回のリポートには、ブロードバンド事業者がユーザーに公示する速度と実効速度との差についても記されている。09年の各アクセス網の公称下り速度は以下の通り。これらをまとめた公称速度は中間値、平均値ともに7M〜8Mbpsとなる。

 これに対し、FCCはユーザーの実測データを集めるため、コンピューターや携帯電話に速度測定アプリケーションを広く配布している。例えば米アップルのiPhone用測定アプリでは、下り速度、上り速度、遅延時間などの数字をワンタッチで測定し、FCCに自動的に報告するようになっている。

 今回の報告書でFCCは、ブロードバンドの下り方向の実効速度は平均値で約4Mbps、中間値で約3Mbpsとした。これはユーザーが事業者の公称速度の半分程度でしか通信サービスを利用できないという意味だ。報告書を受け、ハイテク系市民団体はブロードバンド事業者を批判するコメントを出しているため、「FCCが何らかの改善策を取るよう、ブロードバンド事業者に指導するのではないか」とのうわさが業界内に広がっている。

 これまでブロードバンド事業者各社は「公示した速度はピーク値」と説明しているため、厳密な意味での不当告示には当たらないだろう。とはいえ一般ユーザーが細かい注意書を読んで契約を結ぶわけではない以上、より分かりやすい表示が望ましいことは間違いない。

 

■ ベストエフォートが基本ゆえの課題

 「ネット消費量と不公平負担」の問題にせよ、「広告速度と実効速度の遊離」にせよ、その解決のためには厳密な通信品質(QoS)管理手法の確立という課題にぶつかる。ところが、学術ネットワークとして生まれたインターネットは、ユーザーが利用できる通信速度を保証しない「ベストエフォート」を基本にしてきた。

 もちろん、商用ネットワークとして企業の情報通信ビジネスを担うようになったブロードバンドはベストエフォートという概念だけでは通用しない。とはいえ、ベストエフォートを基礎に生まれたインターネットプロトコルは本質的に厳格な通信管理を受け付けない部分を持っている。今回のリポートが浮き彫りにした事実は、インターネットがその成り立ちから抱えている課題が顕在化したものといえる。

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日経ネット 2010年8月掲載 )