テレビに進出するグーグルがFCCに突き付けた意見書

レポート:小池良次

 7月13日、米グーグルが1通の書類を米連邦通信委員会(FCC)に提出した。そこには同社が開発を進めているネット接続テレビ用プラットフォーム「Google TV」の狙いが克明に記されていた。インターネット広告で権勢を誇るグーグルが「テレビをスマートにする」と宣言し、テレビのビジネスモデルを根本から変えようとしている。

 

■ テレビ番組とネット動画を同列に表示

 グーグルのテレビ進出は、2009年から業界関係者の間でうわさとなっていた。10年3月には、米ニューヨーク・タイムズがGoogle TVに関するニュースを取り上げ、一般からも注目されるようになった。そして5月20日、グーグルは自社の開発者会議「Google I/O 2010」でGoogle TVを正式に発表した。

 この発表は、ソニーとグーグルの全面提携として日本でも話題を呼んだ。Google TVにはソニーのほかに、IT機器メーカーのロジテック(スイス)や衛星放送の米ディッシュネットワーク、テレビ用チップを供給する米インテル、ビデオ再生アプリケーションを開発する米アドビシステムズがパートナー企業として名を連ねる。

 グーグルはGoogle TVで、インターネット動画と既存の商業放送(CATVや衛星放送など)とのシームレスな融合を狙っている。その意図は、プレゼンテーション資料として示した検索結果の画面にはっきりと表れている。通常のテレビ番組と動画共有サイト「YouTube(ユーチューブ)」や動画配信サイト「Hulu(フールー)」といったネット動画を同じ画面に表示する。ユーザーは自分が見たい番組を選択するだけで、それがネット上にあるのかCATVなどの放送で提供されるのかを気にせずに視聴できる。検索結果を使って、その番組を提供できるチャンネルをメニューに表示させるパーソナライズ機能も備えている。

 Google TVは、グーグルの携帯端末向け基本ソフト「Android(アンドロイド)」やグーグルが独自開発したブラウザー「Google Chrome(グーグル・クローム)」を実装し、AndroidやChrome向けに開発したアプリケーションをそのまま利用できるようにする。例えばパソコンや携帯電話に浸透してきた「ウィジェット」と呼ばれるアプリケーションを組み込めば、スポーツ速報やミニブログ「Twitter(ツイッター)」などのコンテンツを、テレビ番組を見ながら同じ画面で利用できる。既にソニーとロジテックは今年の米クリスマス商戦を狙ってGoogle TV搭載機器の開発を進めている。

 

■ FCCを介してMVPDに協力要請

 興味深いのは、グーグルがFCCに対し7月13日に提出した「COMMENTS OF GOOGLE INC.」という意見書の中身だ。そこにはGoogle TVの戦略とともに、グーグルが描く新しいテレビのビジネスモデルがまとめられている。その前になぜ、グーグルはこのような意見書をFCCに出さなければならないのだろうか。

 米国ではテレビ所有世帯の約8割がCATVや衛星放送、通信会社が提供するIPTVを利用しているが、最近はパソコンで見るインターネット放送の人気が急速に高まっている。米調査会社ニールセンによれば、10年6月にインターネット経由で配信された動画の数は、米国だけで100億本を超えている。

 こうしたインターネット放送の急速な伸びに対して、CATVやIPTV、衛星放送などを提供する「MVPD (Multichannel Video Programming Distrobutor)」と呼ばれる事業者は、警戒心を強めている。広告主がMVPD向けの広告を減らしネット放送への配分を増やしていることや、テレビ契約をやめてネット放送だけに切り替える視聴者が現れたことによる。中でもGoogle TVには、特に注意を払っている。

 一方、グーグルがCATVやIPTV、衛星放送とシームレスに連携したサービスをGoogle TVで実現するには、MVPDからインターフェース公開や技術標準化などの協力を得ることが不可欠だ。ただし直接MVPDに要請しても、簡単に協力は得られないだろう。そこでFCCを利用して、状況を改善しようとグーグルは考えたのだ。

 

■ FCCからの意見募集は渡りに船

 米国の放送・通信を管轄するFCCはこれまで、MVPDに端末開放を迫るなどオープン化政策を進めてきた。インターネット放送という新たな潮流に乗ることで「ユーザーの選択肢を広げ、競争を促進する」という方針を展開している。10年3月にFCCが発表した「全米ブロードバンド計画(National Broadband Plan)」にも、ネット放送のオープン化の道を模索する提案(AllVid政策)を加えている。

 そうした背景から、FCCは10年4月21日に、ビデオビジネスのあり方にかかわる意見募集(Notice of Inquiry)を開始した。グーグルが7月に提出したのはこの募集に対する意見である。この中でグーグルは(1)アダプターなどのオープンスタンダード化、(2)コネクションや通信プロトコルにおける一般的な技術の適用、(3)デジタル家電やパソコンのネット接続規格「UPnP(Universal Plug and Play)」技術などのサポート――といった注文を並べ、MVPDが専用システムを使うなどして囲い込みを進めないように求めた。

 さらにグーグルはネットワーク中立性の観点から、動画配信にかかわるデータ交換やデータ制御で透明性を確保するようにも要請した。その一方、料金面には介入しないようFCCに要望している。

 

■ 似て非なるApple TVとGoogle TV

 Google TVは将来、米アップルの専用セット・トップ・ボックス「Apple TV」のサービスと競合するだろう。両者のサービスは一見よく似ているからだ。ただしそのコンセプトは大きく異なる。

 Apple TVはアップルのコンテンツ・ソフトウエア配信プラットフォーム「iTunes Store(アイチューンズストア)」からテレビ番組や映画をダウンロードして「テレビで楽しむ」という用途に限定しており、インターネット放送を重視する姿勢は示していない。あくまでアップルが用意したコンテンツを視聴するための専用ボックスという位置づけだ。

 一方のGoogle TVは、グーグルの広告モデルをテレビ業界に当てはめようとするとともに、既存の商用放送を含む番組の視聴スタイルを変革しようとしている。テレビを知的なサービスに変えて、ユーザーに今まで以上に便利な環境を提供しようというのだ。

 ただしイノベーションは先端技術だけでは実現しない。多くの場合、既存技術に最適化している事業者が既得権益を主張して、新しい技術の導入に抵抗を示すためだ。グーグルが今回のGoogle TVでFCCを通じてMVPDと交渉を繰り広げているのも、そうした事例の1つといえるだろう。

 その意味でグーグルは珍しいタイプの企業だ。同社はイノベーションを実現するため、制度改革や法廷闘争などを駆使して、既得権者と戦う姿勢を取る。日本発のイノベーションが減り、米国発のイノベーションが増えている背景には、こうした企業姿勢の違いが大きいといえよう。

 

■ 日本メーカーはこの分野でもグーグル依存か

 Google TVがある程度成功を収めれば、日本の家電メーカーは日本で同様のサービスの展開を目指すだろう。ただそのときに問題となるのは、日本メーカーが知的部分をグーグルに依存することだ。本来であれば、家電王国である日本がテレビのイノベーションを引き起こすべきだったが、どうやら今回も米国にリードされることになりそうだ。

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日経ネット 2010年7月掲載 )