米CATV業界の祭典
「ケーブルショー」今年の目玉
レポート:小池良次
米国のケーブルテレビ(CATV)業界の祭典「ザ・ケーブルショー2010」が、5月11〜13日にラスベガスで開催された。これまで通信会社のインターネット放送(IPTV)や「Hulu」、「YouTube」といった動画配信サービスとの競争を原動力に新サービスを開発してきた米CATV業界は、今年は双方向番組やビデオ・オン・デマンド(VOD)サービスの強化、米アップルの多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」を使ったアプリケーションなどを発表した。ネット中立性問題では、連邦通信委員会(FCC)のジュリアス・ゲナコウスキー委員長が対談に登場し、ケーブルモデムに対する規制導入について独自の主張を展開した。
■ VOD強化でDVD市場の切り崩し狙う
| 米アップルの「iPad」を使ったEBIFリモコン。iPadからの指示はインターネット経由で家のSTB(セット・トップ・ボックス)に送る |
主催団体National Cable & Telecommunications Associationの名称から「NCTA2010」とも呼ばれるザ・ケーブルショー。初日の朝食会では、米CATV最大手コムキャストのブライアン・ロバーツ会長が、フォックス・グループの最高経営責任者(CEO)だったピーター・チャーニン氏と対談した。ロバーツ会長の解説によると、コムキャストは2009年にVOD番組を有料・無料合わせて約140億回配信し、映像サービスの大きな柱に育てた。さらに今年初めからは、映画やテレビ番組、ミュージックビデオなどを拡充した「Xfinity(エックスフィニティー)」と呼ぶプレミアムVODサービスを提供している。
VODサービスの強化はコムキャストだけでなく、CATV業界全体に広がっている。これまでの10年、米CATV業界は成長性の乏しい映像サービスよりも、利益率が高いケーブル電話などの通信サービスに力を入れてきた。しかし通信サービスが成熟し、新規加入者が伸び悩み始めたため、VODや双方向番組サービス(iTV)など映像事業の強化に向かうようになった。
その一例が、映画スタジオや大手テレビ局などのコンテンツ事業者の切り崩しである。コンテンツ事業者は従来、ウォルマート・ストアーズをはじめとする大手流通チェーンを使ったDVDのパッケージ販売に力を入れてきた。この市場は現在も巨大だが、成長力には陰りが見えてきた。そこでCATV業界は、パッケージ販売よりも高額なライセンス料を提示している。
CATV業界は映画スタジオなどと共同し、大規模なVODの普及キャンペーンを3月に始めた。「The Video Store Just Moved In (ビデオストアがあなたのもとへ)」というキャッチフレーズの下、大手メディアへの広告拡充や専用キャンペーンサイトの開設などに3,000万ドルを投じている。
■ 旧型STBでも双方向サービスを利用できる
NCTA2010で話題となったのは、「EBIF(イービフ)」規格によるiTVの登場である。これまでのCATVの双方向番組サービスは「tru2way (テュルー・ツー・ウエイ)」規格が中心だった。しかしこの規格は大容量メモリーと高速CPUを搭載したSTB(セット・トップ・ボックス)でないとサービスを利用できない。
CATVユーザーの多くは、現在も性能が低いSTBを使っている。そうしたSTBにも双方向サービスを提供できる技術として開発されたのがEBIFだ。コムキャストはNCTA2010の会場で、iPadをEBIF用リモコンとして使うアプリケーションの試作版を紹介した。このアプリケーションは電子番組案内や番組検索機能を備えており、iPadで自宅のSTBを簡単に操作できる。
iPadの無線LAN機能によりインターネット経由でコムキャストにチャンネル切り替えの信号を送ると、コムキャストからEBIF信号が自宅のSTBに届き、テレビのチャンネルが変わる。iPadは、ソフトウエアキーボードが使えるため通常のテレビリモコンよりも入力が簡単で、大型で美しいスクリーンに表示される番組案内の使い勝手もよい。
EBIF規格はこのほかにも、有料ビデオの申し込みやライブ放送中の人気投票、双方向広告といったサービスを提供できる。EBIFを使ったサービス開発は、08年に大手CATV会社が共同で設立したテレビCMの配信システムづくりを目指す振興団体「カヌー・ベンチャーズ(CANOE Ventures)」が担う。今後、各種教育セミナーの開催や顧客情報の取り扱いにかかわるルール作りを進めていく。
■ ネット中立性敗訴がFCCに落とす影
NCTA2010では、FCCのゲナコウスキー委員長が、NCTAのカイル・マクスラローCEOと対談した。対談の中身の前にFCCとCATV業界の現状を整理してみよう。
FCCはこれまでインターネットの中立性にかかわるガイドラインを定めて、ブロードバンド規制を推し進めてきた。しかし4月初め、コムキャストと争っていたブロードバンド規制を巡る裁判でFCCが敗訴し、CATV業界のブロードバンドに規制できない状況に陥った。
もともとインターネットプロバイダーとそのサービスは通信法上の情報サービス分野(1996年改正通信法におけるTitle I)に分類され、ケーブルモデムやDSLは規制の対象外だった。しかしFCCは、消費者保護の観点から自らの権限としてCATV業界にネット中立性に基づいて規制をかけようとしていた。これに対しコロンビア特別地区連邦巡回控訴裁判所はCATV業界の主張を認め、FCCがコムキャストに対して行ったブロードバンド運用の改善命令を違法としたのである。
しかしFCCは5月初めに「The Third Way(第3の道)」と題する異例の声明を発表した。消費者保護の分野に限って「CATV業界のブロードバンドにも規制を適用する」という提案だ。具体的にはCATVを固定電話や携帯電話と同じ通信サービス(Title II)に分類変更しようとしている。
ゲナコウスキー委員長は対談の中で、FCCの置かれた厳しい状況を説明し、規制はあくまで消費者保護に限定するとして、CATV業界の協力を求めた。これに対しマックサローCEOの返事は「将来に対する保証はない。CATV業界としては、非規制という現状を維持してほしい」というものだった。結局、両者の議論は平行線をたどったままだ。
■ インフラでは優位でもサービスで米国に劣る日本
米CATV業界は、放送通信融合サービスの開発・普及を着々と進めている。電話がかかってくると、テレビ画面に発信者の情報が表示される。数千から数万規模の大量の映画やテレビ番組を安い価格で視聴できる。STB内の予約情報を携帯電話機からも設定できる。さらにインターネット経由の番組配信にも熱心だ。こうした情報通信サービスに対する姿勢において、日本は米国に大きく水をあけられている。
日本は世界一安い料金で最大毎秒100メガビット程度の光サービスを利用できる。米国では最大毎秒十数メガビットのサービスしか利用できない地域が大半を占めている実情からすると、インフラ面では日本に軍配が上がる。その一方で米CATV業界は月額1万円から1万5,000円程度の費用で、日本より質・量ともに格段に優れたサービスを提供している。
日本は今でも、ブロードバンド未整備地域の解消に力を注いでいるが、放送と通信を融合した本格的サービスがおろそかになっている。ここには放送業界の協力がないと、放送通信融合サービスが実現できないという事情が見え隠れする。日本の放送業界も地上波とインターネットを区別なく使って融合型のサービスを提供すべき時期にきているのではないだろうか。
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( 日経ネット 2010年5月掲載 )