周波数供出を迫るFCCに米放送業界はどう応じたか

レポート:小池良次

 4月13日(米国時間)、米連邦通信委員会(FCC)のジュリアス・ゲナコウスキー委員長がラスベガスで開催されていた全米放送事業者協会(NAB)の年次総会「2010 NAB SHOW」に出席し、居並ぶ放送関係者に協力を訴えた。FCCは周波数不足を訴える移動体通信事業者の次世代無線ブロードバンドに、テレビ放送事業者から120MHz幅の帯域を振り替えようとしている。この提案に対する米テレビ業界の反応に注目が集まった。

 

■ FCCが地上テレビ放送の周波数を狙う理由

 3月16日にFCCが発表した全米ブロードバンド計画(NBP)では、無線ブロードバンド整備のために向こう10年間で500MHzの帯域を確保するとの提案が盛り込まれた。FCCはこのうち120MHzの帯域をテレビ放送事業者から無線ブロードバンドに振り替えようと計画している。

 米国の地上テレビ業界は、2009年にようやくアナログ放送の停波を完了させ、落ち着きを取り戻したところ。そこに飛び込んできたFCCの提案に対して、地方局の一部が不満の声を上げるなど、新たな混乱が広がっている。

 FCCがテレビ放送用周波数の用途変更を狙う背景には「地上テレビ局は電波を有効活用していない」との批判が潜んでいる。

 デジタル放送への移行に伴い、米国のテレビは1局が1波しか使えない状況から、1局が4〜5波を利用できる多チャンネルモデルに移った。しかし、広告収入が減少する中、多くのテレビ局は増えたチャンネルに十分な番組を供給するだけの余力がなくなってきた。“天気予報”や“交通情報”といった番組が増え、交通管制センターからの映像を解説なしで流す局や、動画のない“音楽チャンネル”などの安易な番組で電波を「埋めている」局がある。

 新事業として注目されていた携帯電話向けモバイル・デジタル放送もあまり進んでおらず、2009年末までにモバイル・デジタル放送を開始した放送局は40局に届かなかった。同サービスの振興団体であるオープン・モバイル・ビデオ連盟(OMVC:Open Mobile Video Coalition)が立てていた、「2009年末までに60局以上で開始」という目標を下回った。

 こうしたテレビ局の動きは、高い免許費用を払って周波数を獲得し無線ブロードバンドを展開する通信事業者からは、「電波の無駄遣いをしている」と映る。

 

■ 見え始めたテレビ局による電波の活用

 ではテレビ局は本当に「電波の無駄遣い」をしているのか。NAB SHOWの会場ではテレビ局の電波を活用するため多様な取り組みが見え始めており、一方的に非難するのは適切ではないといえる。

 携帯向けモバイル・デジタル放送では、OMVCが朝食会を主催し、いすに座れない参加者が壁際に並ぶ盛況ぶりを見せた。そこでOMVCは 2010年末までに150局がモバイル・デジタル放送を開始すると発表し、韓国のサムスン電子やLG電子による普及キャンペーンを紹介した。

 テレビ局の新事業にかかわる展示も相次いだ。例えば映画スタジオの「MGM」がNAB SHOWに出展し、同社が地上テレビ放送局向けに販売する映画チャンネルをアピールした。同チャンネルは地方放送局による導入のハードルを下げるため、地方局と映画スタジオが番組中の広告放送時間を分け合う“レベニューシェア(収入分割)”方式を採用している。

 さらに放送コンテンツをFlash形式でネット上に配信したり、番組関連の商品をオンラインで販売する付帯サービスを紹介する大手電話会社やインターネット接続業者のブースにも、多くの人が集まっていた。

 

■ 妥協点を模索するテレビ局とFCC

 FCCのジュリアス・ゲナコウスキー委員長は、厳しいスケジュールの合間を縫って、ワシントンからNAB SHOWが開催中のラスベガスに乗り込んだ。同委員長は基調講演の中で、FCCへの誤解があると指摘し、いったん放送局に交付した無線免許を安易に取り上げることはないとの姿勢を説明した。

 FCCの提案は、テレビ局などが所有する周波数の一部を、移動体通信事業者向けの競売に自由意思(ボランタリー・ベース)で提供すること。FCCが移動体通信事業者を対象とした電波競売を開催し、そこに周波数に余裕のある放送局が自身の意思で参加するというものだ。不動産事業に例えれば、余ったオフィス・スペースを他社にサブリースすることに似ている。

 ゲナコウスキー委員長は「放送事業者の不利益にならないよう、競売ルールの作成を含めてすべてオープンな場で議論する。最低落札価格といった保証も考えている」と発言。放送事業者にオークションへの参加を要請した。

 NABとしても、一部には反発があるものの、連邦政府との正面衝突を避けられる妥協点を模索していたようだ。放送業界にとっての最悪の事態は、連邦議会が周波数の用途変更を強制する法律を可決することだ。そうなるとデジタル化で増えたチャンネルで新事業の展開を予定していたテレビ局にとっては大打撃となる。

 さらにその後は「官の民業圧迫」といった批判がテレビ業界から起こり、連邦議会との泥沼の対立を余儀なくされる。そうした事態を避けたいFCCは、放送局が自らの意志で電波競売に参加するという筋書きを書いた。

 この“自由意思による競売”提案は、NABのゴードン・スミス会長がNAB SHOW初日の基調講演で政府に要望した内容と重なる。それを2日目の基調講演でゲナコウスキー委員長が確認した。つまり今回のNABは、テレビ向け周波数にかかわる政府とテレビ局の合意を内外に示す重要な場となった。

 

■ 日本でも放送と通信の融合が加速する

 ゲナコウスキー委員長は次の言葉で講演を締めくくった。「技術主導の(経営環境)変化は決して生易しくはない。ブロードキャストも破壊的な技術革新に足を踏み入れている。(略)こうした変化のペースは速くなる一方だ。しかし、我々(FCCと放送局)は一緒になって、デジタル時代のチャンスをつかめると私は信じている。」

 長い歴史を持つテレビ業界は、デジタル時代に新たなビジネスの構築を模索しているものの、その対応は遅くさらに加速する変化に対応できない ──そうした現状をFCC委員長が「はがゆい思い」で見ていることがうかがえる。

 アナログ停波を間近に控えた日本でも、地上テレビ放送局はこれから大きな変化に直面する。第3世代携帯電話サービスで米国に追い抜かれた日本が、デジタル化という変化にうまく対応できないと、放送と通信の融合の領域でも米国に先を行かれるばかりか、その差はどんどん広がっていく。

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日経ネット 2010年4月掲載 )