便利さより不便さに注目が集まるクラウド
米インターロップ報告
レポート:小池良次
クラウド企業を集めた クラウドブースは大人気 |
企業向けITシステムの展示会「Interop(インターロップ)ラスベガス」が17〜21日に米ラスベガスで開催された。かつての華やかさはないとはいえ、不況にもかかわらず「グリーンIT」「モバイル」「エンタープライズ2.0」などのテーマが並び、意外な盛況に驚かされた。ここでも「クラウド・コンピューティング」は大きな目玉で、ユーザー企業側のIT投資意欲も思ったほど冷え込んでいないのでは、という印象すら覚えた。
世界的な不況で米国企業のIT投資意欲が下がっていることは間違いない。しかし、ネットバブルが崩壊した2000年から2003年の3年間、米通信業界は今よりもっと厳しい不況に直面した。光ファイバー投資を筆頭に、当時は市場が約2〜3割も縮小し大混乱となった。今回の不況は規模が大きいが、通信市場への打撃だけを見た場合、当時ほどひどくはなっていない。
今年のインターロップはこうした状況をよく反映している。かつてはシスコシステムズやIBMなどのCEO(最高経営責任者)が一堂に顔をそろえる華やかな展示会だったが、今年はそうした大物の姿はない。とはいえ、グリーンITのカンファレンスには多数の参加者が集まり、ITオートメーションやSaaS(Software as a Service)、仮想化データセンター、企業向けモバイルサービスなど興味深いテーマに事欠かなかった。
なかでも関心を引いたのは、アプリケーションとネットワークの融合を狙うADC(アプリケーション・デリバリ・コントローラー)とクラウド・コンピューティングだった。
■ ウェブ時代のアプリケーションとネットワーク
ADCを手がけるCitrixの説明風景 |
一昔前まで、財務や会計、人事や生産管理などの基幹システムは専用のソフトウエアを社内サーバーに入れて利用してきた。しかし、最近は遠くのデータセンターにあるサーバーから広域ネットワークを使って利用するウェブ・アプリケーションが主流になっている。ところがウェブ通信はそもそもサーバーにあるデータを「閲覧する」ために作られた技術で、アプリケーションの「入出力作業」は考慮されていない。おかげで入力してもなかなか画面が更新されないなどのトラブルが広がっている。これをパフォーマンス問題と呼ぶが、ADCはその問題を解決するシステムとして注目されている。
ADCでは、アプリケーションがネットワーク機器(ルーターやスイッチ)と協力して、重要な情報を円滑に運ぶように工夫する。たとえば、電子小売システムにおける売買情報は、電子メールなどよりも重要だと判断して優先的に伝送する、といった具合だ。これが実現するのは、SAPやVMware、マイクロソフト、オラクルなどの企業アプリケーション大手がパフォーマンス問題に直面し、これまで無視してきたルーターやスイッチとのインターフェース作りにようやく力を入れ始めたためでもある。
ネットワークは情報を運ぶもの、コンピューターは情報を処理するもの――。企業情報システムではそんな区別が当たり前だったが、ADCの動きを見るとそうした概念が通用しなくなっていることがわかる。
■ 導入が広がるにつれ課題も露呈
クラウド・コンピューティングは企業情報システムにおいても、もっともホットな話題となっている。今回のインターロップでもIBMやSAPの幹部が基調講演に登壇し、クラウド・コンピューティング、特にプライベート・クラウドの可能性について熱弁を振るった。展示会場でもクラウドサービスやクラウドホスティングなどの言葉が多く見受けられ、この技術が黎明期から普及期へと向かっていることを示していた。
しかし、クラウド関連のカンファレンスに目を向けると、クラウドの導入に挑戦する企業が増え、解決すべき課題が次々と出現している実情もわかってくる。たとえば、クラウドがコストダウンに貢献するという触れ込みに対し「アプリケーションのピーク率(最大利用時と平常時の比率)が2対1までならよいが、3対1以上なら逆に高くつく」「クラウド・コンピューティングはスケールダウンと一体。クラウドに移ってもサーバーの数を減らせなければ、コスト削減効果は限定的」といった厳しい意見が飛び交った。
プライベート・クラウドの構築について 講演するIBMのRic
Telford氏 |
AT&TのJoe Weinman氏は「ピーク率が 高い場合、クラウドは適さない」と指摘した |
また、クラウドではシステムを簡単に拡張できる半面、ユーザーが大規模システムに移行しようとしてデータベースが破綻するなどのトラブルも増えている。昨年までは、「夢のシステム」「次世代モデル」と持てはやされたクラウド・コンピューティングだが、導入が実際に始まるにつれ、逆に未成熟な部分が露呈している。
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業界団体のTIA(Telecommunications Industry Association)は5月に発表した通信市場予測で、2009年の通信市場(全世界)は前年比3%減少すると予想している。ただ地域別にみると、米国以外は2.2%のマイナスにとどまり、米国だけが5.5%減と突出している。これは2008年は520億ドルだった米通信事業者の国内設備投資が2009年には450億ドルへと約13%も減少することが大きく影響しているようだ。
このような状況にもかかわらず、米国内の企業通信機器市場は2008年の1101億ドルから2009年の1018億ドルへ約7%減少するにとどまると、同リポートは予測している。米国企業のIT投資削減は、予想よりは低い水準にとどまっていると言えるだろう。とはいえ、同リポートは米通信業界の不況脱出を2011年と予測している。
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( 日経ネット 2009年5月掲載 )